自主防災 人のつながりカギ
神戸市民防災研究所所長井上哲雄さん(69歳)
「防災は市民が主役?阪神大震災の教訓から」 そんなテーマの講演会を、神戸市民防災研究所の所長、井上哲雄さん(69)=神戸市東灘区渦森台=は全国で120回以上続けてきた。ホームページなどは設けていないが、口コミで評判が伝わり、講演依頼は絶えない。「地域防災への意識は加速度的に高まってきている。大災害が起きた時には、消防や行政の力だけでは対応できないとの認識が、多くの人に浸透しつつある」と話す。 震災で、住んでいた団地は一部損壊ですんだ。しかし、同区の御影地区で営んでいた地図編集事務所は全壊した。友人3人を失い、安置所の遺体にすがりつく遺族の姿も目の当たりにした。「行政も住民も地震対策が不十分だったのでは」。そんな思いが、地域防災の研究を始めるきっかけになった。 かねてから自治会活動には積極的に参加していたこともあって、震災2年後に発足した地元の「防災福祉コミュニティー」の会長に就任。その活動を通して、「震災の体験と教訓を全国の人に伝えていくことが神戸市民の義務」との思いを強くした。01年には自宅近くに防災研究所を構えた。以来、研究と講演活動に専念している。 講演ではこう訴える。「防災で最も重要なのは、耐震補強と自主防災力の強化です」。震災犠牲者の8?9割が家の下敷きになって亡くなった一方で、下敷きの状態から生還した人の9割以上が住民に助けられたという調査結果を考えれば当然とみる。 自主防災では人のつながりこそがカギ、というのが持論だ。「餅つきでもカラオケ大会でも、イベントをやるには住民をまとめるリーダーや事前準備をする人、当日参加する多数の人がいないと成り立たない。日頃そういう活動を重ね、いざという時に動ける地域組織をつくっておくことが大事。防災と地域活動は切り離して考えられない」 都市部で大地震が起きれば莫大(ばくだい)な数の木造家屋が倒壊すると予想されながら、耐震補強が進んでいないのも気がかりという。「耐震補強には多額の費用がかかる。やはり行政の支援が欠かせない。補強をした方が安上がりになる」と強調する。 講演依頼は年々増え、昨年は40回を超えた。今、講演のタイトルと同じ題名の本の執筆を進めている。
◆自主防災組織◆
阪神大震災をきっかけに、地域住民による自主防災の重要性が見直された。県消防課によると、県が97?01年度に防災資機材の購入に補助金を出したこともあり、95年4月に約27%だった県内の組織率は、04年4月には約94%にまで上昇し、全国4位となった。 多くの市町では自治会単位で組織しているが、神戸市では震災直後の95年度から、複数の自治会や婦人会などが協力し、小学校区単位で「防災福祉コミュニティー」の結成を進めてきた。同市は、結成時に世帯数に応じて最大150万円相当の資機材を提供するほか、毎年の活動費・運営費を助成している。 同コミュニティーは現在183団体あり、同市内の9割以上の学区をカバーしている。防災訓練や防災啓発活動などのほか、日頃はふれあい給食会などの福祉活動に携わり、有事の際にスムーズに協力し合えるように、コミュニケーションを図っている。
朝日兵庫
